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秋刀魚の味(小津安二郎監督) [小津の名作]

☆秋刀魚の味
(1962年制作、小津安二郎監督、脚本:小津安二郎、野田高悟、音楽:斎藤高順、撮影:厚田雄春
笠智衆、岩下志麻、佐田啓二、岡田茉莉子、中村伸郎、北竜二、杉村春子、東野英治郎、加東大介、吉田輝雄、三上真一郎、三宅邦子、岸田今日子、牧紀子)
   
小津安二郎監督の遺作である。
多くの作品でテーマとしてきた、娘の結婚をほのぼのとしたユーモアを交えて描いた好編である。
娘を持つ父親としては、涙失くしては見られないシーンもあり、ラストの笠智衆の孤独な寂しい姿は、痛烈に脳裏に焼き付く。

恩師や同級生との交流を通じて、人生の悲哀や運命をサラッと描いて、決して深刻にはならない小津タッチが、淡々と描かれていく。
どこかで見た様なシーン、同じような役柄を同じ俳優が演じていて、さまざまな映画が交錯するような感じもするが、これが小津流なのだろう。

妻を亡くし、娘と息子と3人で暮らすサラリーマン平山周吉(笠智衆)が主人公で、旧友の河合(中村伸郎)、堀江(北竜二)の3人が、物語の進行役を務めている。気の置けない3人の会話が楽しいし、河合、堀江という苗字は「彼岸花」でも同じ苗字の役を同じ俳優が演じている。
(「秋日和」でも、苗字こそ違うが似た様人間関係が描かれているし、3人が集まる料亭「若松」の女将役は3作とも高橋とよが演じ、3人組の冷やかしに会う役を演じている。)

セリフは、何度か繰り返される独特のセリフ回しが印象に残るのも小津流、決まったカメラアングルでの構図や似た様なセット作りと出演俳優の多くは常連が努めるというスタイルは、「豆腐屋」には「豆腐」しか作れないという小津監督の信念に基づく手法で制作されており、作品は世界的にも評価が高い(特にヨーロッパ)。

主人公平山役の笠智衆は戦前から小津作品に出演、戦後はほとんどの作品に出演した。同じ役名での出演も多く、笠智衆に限らず他の俳優達も同様のキャスティングをされたケースが多かった。
娘の結婚、家族の絆をテーマとした作品が多く、哀しくも有り、楽しくも有り、いつか出会うであろうシチュエーションを、疑似体験させてくれる作品となっている。

いつもながらその独特の間合い、熊本鉛の抜けないセリフ回しが安心感を与える笠智衆の名演技が、心を揺さぶるし、この作品では東野英治郎のひょうたん先生が出色の出来。

岩下志麻、岡田茉莉子が綺麗で、三宅邦子、岸田今日子の垢抜けした品の良さが目立ち、周平の会社のOL田口役の牧紀子も品の良い美人女優で、小津監督のセンスの良さが忍ばれる。杉村春子や高橋とよなど、常連の俳優達も名演技を見せている。

脚本作りの段階で、各場面の演出プランが出来上がっているのだろうし、余分な演技を排除させ、納得するまでテイクを重ねたという完全主義者小津安二郎監督の最後の作品と思うと、灌漑深いものがある。

“毎日が映画日和” 85点


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秋日和(小津安二郎監督+原節子) [小津の名作]

☆秋日和(小津安二郎監督+原節子)
(1960年制作、小津安二郎監督、脚本:野田高悟、小津安二郎、音楽:
斎藤高順、撮影:厚田雄春、原作:里見弴
原節子、司葉子、岡田莱莉子、佐分利信、中村伸郎、北竜二、佐田啓二、三宅邦子、沢村貞子、桑野みゆき、渡辺文雄、須賀不二男、南美江、三上真一郎、高橋とよ、岩下志麻、笠智衆)
   
小津監督の晩年の傑作で、親友の法事に集まった旧友3人が引き起こす、ほのぼのとした出来事を、ほんわかさせて、しんみりさせ、にんまりさせる物語。

母秋子(原節子)と娘アヤ子(司葉子)の2人暮らしの三輪親子の結婚話に奔
走する間宮(佐分利信)、田口(中村伸郎)、平山(北竜二)のおせっかいトリオが、
引き起こす騒動が、アヤ子の結婚に繋がって行くというストーリーで、
デジタル再生によるくっきりと鮮やかで、しっとりと綺麗な色調で、
小津監督独特のローアングルで固定された構図が、画面に落ち着きと安定感を生み出している。

家族をさまざまな視点で捉える小津監督作品は、ヨーロッパで評価が高く、
小津組と称されるスタッフ・キャストで、映画を作り続け、父や母と娘、家族と
の絆がテーマとして描かれている作品がほとんどである。
主演の原節子(出演時40歳)は、2015年9月に95歳で、亡くなったが、
1963年小津監督が60歳で亡くなると、公の場に一切姿を見せなくなり、
実質引退している。

小津監督作品では、原節子出演作品の評価が高く、小津監督も原節子を最高の
女優と評している。(小津監督作品6作品に出演「晩春」「麦秋」「東京物語」「東
京暮色」「秋日和」「小早川家の秋」)

この作品でも、清潔感ある気品漂う演技で、未亡人を爽やかに演じている。娘
の幸せを願い、自らの運命に逆らうことなく一人生きていくことを決意してい
ることを娘に語る伊香保温泉(セット)でのシーンは、涙溢れるシーンとなっ
ている。

修学旅行生(女子)の歌う「山小屋の灯」が心地よく耳に残るが、映画全体に
流れる斎藤高順の昭和を感じさせる明るく綺麗な、さまざまな場面で流される
旋律が、印象深い。
小津作品ではお馴染みの、中村伸郎、北竜二、佐分利信の3人が、掻き回し役
となり、当時(昭和35年制作)の道徳感を司葉子(当時26歳)や岡田莱莉
子(当時27歳)に代弁させている。

生涯54本の監督作品があり、戦前39本、戦後15本で、特に戦後の作品の
評価が高い。「東京物語」は、世界中でベスト10やベスト100に選出される作品で、
家族の在り方を描く名作である。

戦後の作品のほとんどを共同で脚色している野田高悟は、戦前の小津監督の処
女作からの付き合いで、私生活でも繋がりが深く、良きパートナーだったとの
こと。
小津監督作品は、どっしりとした安定感があり、安心して鑑賞できる作品が多
く、今では見る事の出来ない卓袱台のある風景や家族の絆を再認識でき、心の
琴線に触れる懐かしい思いを抱かせる名作揃いである。

“毎日が映画日和” 90点


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早春(小津安二郎監督) [小津の名作]

☆早春(1956年公開 小津安二郎監督・脚本、野田高悟脚本 音楽:斎藤
高順 撮影:厚田雄春 池部良、淡島千景、岸恵子、笠智衆、浦部粂子、山村
聰、三宅邦子、杉村春子、東野英治郎、加東大介)

子供を病気で亡くした夫婦が、夫の一夜の過ちから一度は亀裂が入りかけるが、
関係するさまざまな人たちの尽力もあり、夫婦の危機を乗り越えていく物語で、
さまざまな人間模様が描かれ興味深い。

戦後10数年を経た当時の会社員の世相をあれこれ描写し、当時としては異質
な役柄(時代の先端)だったのではないかと思われる「岸恵子」を穏やかな水
面に波紋を広げる小石のような役柄で抜擢し、(それにしても稀にみる気品と綺
麗さ)この物語の進行役的役割を演じている。

淡島千景がしっくりこない夫婦の危機を感じている妻役を演じており、素直に
なれない自分と夫への不満を顔の表情や態度で見事に表現している。
池部良は、煮え切らないが犯してしまった過ちを悔やんでいるが、どのように
対処したらよいかわからず悩む二枚目を演じ好演。

小津作品の常連ではない二人(岸恵子、池部良)が演ずることで、小津作品の
なかでもシャープさ(切れ味:歯切れの良さ)が加わったような印象を受ける。
脇役陣は、淡島千景の母親役の“浦部粂子”、戦友役の加東大介や定年を控えた
サラリーマン役の東野英治郎、夫婦の中を心配する笠智衆など、この人なんて
俳優だっけと考えている間もなく次から次と名声を得た俳優が出てくる。

先日見た「彼岸花」の2年前の作品である。不倫してしまった夫とともにこれ
からの人生を過ごせるかという、女性の覚悟を問う映画といってもいいのだろ
うが、離婚が当たり前の現代では、このテーマで映画は作れなかっただろう。
「名作:東京物語」から3年後の作品である。

相変わらず、きめ細かい演出、計算され尽くしたアングルと、観客を落胆させ
ない職人魂を感じるが、ちょっとほろ苦さも味わえる映画である。

“毎日が映画日和” 85点

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